FXとは|初心者が知っておくべきFXの現実
FXが銀行以外の一般企業の金融商品として認められてから、20年以上が経ちました。
わずか数万円の資金で始められるという特徴から、多くの一般投資家に普及してきました。これからFXを始めようとする方も多いでしょう。
このカテゴリでは、「FXとは、どのような取引なのか」という大まかな視点から、FX初心者向けの記事を集約しています。
また、FXの認知度が高まったとはいえ、投資家はFXで儲けているのかどうか、見えにくいです。そこで、FXを始める前に一呼吸おいて、「現実」を探ってみましょう。
FX投資で資産を増やしている人はどのくらい?
多くの人が、FXを楽しんでいます。では、取引している人は、資金を増やしているでしょうか。それとも、損しているでしょうか。
最初に、個人投資家がどこに投資しているかを確認しましょう。そして、FXの実態を概観します。
個人はどこに投資しているか
個人はどこにどれだけ投資しているか、その分布は以下の通りです。預金が圧倒的に大きいことが分かります(データを得られた投資先のみ)。
投資対象別残高割合
- 預金(外貨預金除く):463兆円
- 株式:106兆円
- 外貨預金:6兆円
- FX:1.7兆円
- 暗号資産(仮想通貨):0.2兆円
※2019年3月末時点
円グラフにすると、下の通りです。
一般的に、預金は投資の一部だと認識されていないでしょう。そこで、預金を除いたグラフは下の通りです。株式が圧倒的に大きいと分かります。
この「株式」には、投資信託や年金を含んでいません。含めて考えると、株式残高割合はさらに圧倒的になり、外貨預金・FX・暗号資産は誤差のような割合になります。
株式は、歴史がとても長いです。個人向けFX市場は、1998年に登場しました。暗号資産は、2010年代半ばです。この歴史の差が、残高の差が大きい原因の一つでしょう。
それでは、FXに注目して、個人投資家の損益状況などを見ていきましょう。
FXの顧客損失額
仮に、顧客が全体としてプラスの成績だとしましょう。この場合、FXで取引したいという人が多くなると予想できます。
と言いますのは、顧客が全体としてプラスの成績を残しているなら、自分も資産を増やせるだろうと期待できるからです。
実際は、どうでしょうか。FX業者の業界団体「社団法人 金融先物取引業協会」が、顧客の損益額について、2015年5月から1円単位で公表しています。
グラフ化しましたので、確認しましょう。
下のグラフのタイトルに、堅苦しい名前がついています。「顧客区分管理必要額正味増減額」です。平たく書けば、顧客の損益額に相当する額です。
顧客が毎月、どれだけ資産を増やしたか(または減らしたか)が分かります。
上のグラフを見ますと、顧客がFXで資産を増やした月が結構あることが分かります。500億円以上のプラスだったという月もあります。
しかし、損失額が大きいです。1か月間で2,000億円以上の損失という月もあります。全体としては、損失額が多いだろうと分かります。
下は、月ごとの損益額でなく、損益累積額の推移です。
月ごとの損益グラフとは、印象が大きく異なることが分かります。顧客が一方的に負けている、そのようにさえ見えます。
金融先物取引業協会が公表しているのは、2015年5月以降の損益です。2015年5月から2020年4月までの間に、顧客は1兆4,000億円の損失を計上しました。
1年あたり、3,000億円弱の負けということになります。
競馬ファンの損益
1.4兆円という数字は、大変な大きさです。しかし、これは日本全体の話であって、特定個人の損失というわけではありません。
では、他の相場の顧客損益は、どうなっているでしょうか。
比較対象としては株式が良さそうですが、顧客の損失を示すデータが見つかりません。そこで、データを得やすい競馬と比較してみましょう。
FXと競馬は異なりますが、「自分のお金を投入して、成功したら増えるし逆なら損する」という意味では同じだと言えます。
下は、中央競馬会(JRA)で公開されているデータをグラフ化したものです。馬券売上から払戻金を引けば、JRAの収入が分かります。この額は、ファンの損失額でもあります。
2015年から2019年にかけて、損失額が徐々に増えています。競馬の場合、払戻金の額は、馬券収入の75%程度になっています。
よって、ファンの損失額の増加は、競馬人気が拡大している証拠でもあります。
毎年、ファンは概ね6,000億円以上の損になっていると分かります。
しかし、このお金(損)があるから、ジョッキーや馬主は賞金をもらえますし、厩舎は馬を育成できます。よって、もしかすると、ファンは負けても喜んでお金を支払っているかもしれません。
2015年以降のファンの損失額を累積したのが、下のグラフです。5年間で3兆円以上の損だとわかります。
FXと競馬は比較できないが…
FXと競馬は、ジャンルが違いますし、参加している人数も違うでしょう。ルールも異なります。よって、単純な比較はできません。
FXの損失額1.4兆円という数字だけ見ると、大変巨大な額でどうしようもないように見えてしまいます。
しかし、競馬の例と比較しますと、「まあ、こんなものかな」と思えてしまうのが、不思議なところです。
そして、競馬で負ける人が多い一方、お金を増やす人もいます。ごくまれですが、勝ちすぎて税金でトラブルになった人の例が報道されます。
競馬の場合、買った馬券の金額のうち、概ね75%が払戻の対象です。コストは25%くらいです。
FXの場合、米ドル円を100.00円で買って、スプレッドが0.2銭としますと、コストは0.002%です。
FXと競馬は単純に比較できないとはいえ、直接的なコストの大きさを考えますと、FXでしっかりと資産を増やしている人は、一定割合で存在するだろうことが分かります。
顧客の損とFX業者の利益は異なる
ちなみに、「顧客の損=FX業者の利益」とみなせるような論調が、ウェブサイトに出ています。では、ここで確認した1.4兆円の顧客の損失は、そのままFX業者の利益になったのでしょうか。
その考え方は、正確ではありません。それは、FX業者の収益の仕組みから分かります。
FX業者の収益構造
例えば、顧客が米ドル/円を買うとしましょう。FX業者から見れば、顧客に米ドル/円を売ることになります。
そして、顧客が10万円の利益を得たとします。この場合、FX業者は10万円を支払ったということになります。逆に、顧客が10万円損すれば、FX業者は10万円を得ることになります。
ということは、「顧客の損=FX業者の利益」という考えになります。
カバー取引
ところが、この考え方ですと、FX業者は常に破綻リスクに怯えることになります。
あるとき、顧客が、突発的に巨大な金額を得たとしましょう。FX業者は支払うわけですが、その負担に耐えられなければ、破産してしまうからです。
すなわち、「顧客の損=FX業者の利益」の構造では、企業が存続できるかどうか分からず、危険すぎます。
そこで、FX業者は防衛しています。
顧客が1万通貨買ったら、FX業者は顧客に1万通貨を売るとともに、インターバンク市場(銀行間市場)で米ドル円を1万通貨買います。
下は、この取引のイメージ図です。
顧客:1万通貨の買い
FX業者:1万通貨の売り
FX業者:1万通貨の買い
インターバンク市場:1万通貨の売り
この二つを見ますと、FX業者は1万通貨を買って、売っています。すなわち、ポジションは差し引きゼロです。これで、相場がどうなろうとも、FX業者は損しません。
ポジションは差し引きゼロですから、顧客が大損しても、FX業者が儲かるというわけではありません。スプレッドから収益を得ています。薄利多売です。
FX業者によるインターバンク市場との取引を、カバー取引と呼びます。上の図を見ますと、FX業者は、顧客とインターバンク市場の仲介になっている様子が分かります。
なお、カバー取引をすると、コストがかかります。FX業者としては面白くないコストですが、自社の取引の安全を確保するために、止むを得ません。
FXで勝つ人と負ける人の割合
次に、FXで勝つ人と負ける人の割合は、それぞれどれくらいでしょうか。これを検討します。
この数字を考える場合、ちょっとしたトリックに注意が必要です。ある人が、FXで取引しました。下は、月ごとの成績です。
- 1か月目:+10万円
- 2か月目:+10万円
- 3か月目:+10万円
- 4か月目:+10万円
- 5か月目:△100万円
毎月、順調に資産を増やしてきました。5か月目に大きく負けている様子が分かります。この人は、負けたと言えるでしょう。
なぜなら、損益合計は△60万円だからです。ところが、データを公開する人の見せ方によって、あたかも資産が増えたかのように錯覚してしまいます。例えば、以下の通りです。
- 4か月連続でプラス
- プラスだった月は、全体の80%
プラスの月だった確率が高くても、最終損益はマイナスですから、損です。この錯覚に陥らないようにしたいです。
フランスの調査
では、月ごとでなく、年単位の最終損益はどうだったか?を公開しているデータはあるでしょうか。日本では見つかりませんでしたが、フランスの金融庁に相当する機関(AMF)が公開していました。
2009年から2013年にかけての、顧客の実際の取引データを使った分析です。アンケートではありませんから、信頼性は抜群です。しかも、月ごとでなく、年単位での調査です。
下は、年間取引で損した人の割合です。
2009年:84.2%
2010年:84.2%
2011年:83.8%
2012年:84.2%
2013年:83.3%
4年間の損益合計:89.4%
調査は、FX業者から4年分の顧客データを回収して、実行されました。
業者によって、2009年~2012年のデータ、2010年~2013年のデータに分かれています。そこで、2009年~2013年の5年分のデータですが、表の一番下は「4年間の損益合計」となっています。
この表を見ますと、年間成績がマイナスの人は、概ね84%です。すなわち、勝った人は16%です。
4年間の合計でマイナスになった人は、89.4%です。すなわち、勝った人は10.6%です。
10%という数字が大きいか小さいか、それは、人それぞれの印象で変わってくるでしょう。9割が負けるとはいえ、大半の人は「何となく」という感じで取引していることでしょう。
よって、本気でFXに取り組めば、10%の側に入って資産を増やせるのでは?と考えることも可能です。
日本でのFX取引の特徴
最後に、日本の顧客の特徴を、FX取引の面で考察してみましょう。データは、金融先物取引業協会からの引用です。
通貨ペア
下は、2020年4月の通貨別取引金額実績です。上位10通貨ペアを並べました。
- 米ドル円 325.6兆円
- ポンド円 50.3兆円
- 豪ドル円 45.0兆円
- ユーロ円 29.5兆円
- ユーロ米ドル 26.0兆円
- ポンド米ドル 15.9兆円
- 豪ドル米ドル 5.7兆円
- ポンド豪ドル 3.2兆円
- NZドル円 2.5兆円
- ユーロ豪ドル 2.5兆円
米ドル円の取引高が、桁違いに大きいことが分かります。2020年4月の米ドル円の取引金額シェアは、63%を越えています。
世界的に見れば、ユーロ米ドル、米ドル円、ポンド米ドルが3大通貨ペアですが、日本のFXでは、米ドル円が圧倒的です。情報を得やすいことや、馴染み深いことが要因でしょう。
円売りか円買いか
上位の通貨ペアを見ますと、4位までが円を含んでいます。そこで、円売り取引と円買い取引のどちらが多いか、比較してみましょう。
上のグラフで明らかなとおり、円売り取引が圧倒的に多いです。縦軸の単位は「兆円」ですから、凄まじい金額です。
以上のグラフから予想できるのは、以下の通りです。
- 円安局面:資産を増やす人が多い
- 円高局面:資産を減らす人が多い
FXは、買いでも売りでも取引できます。上昇・下落両方の局面で収益を得られるのが、最高の展開です。
FXのルールの特徴
最後に、FXのルールを簡潔に確認しましょう。それぞれの詳細につきましては、別記事で検討することにしましょう。
FXのルール
- 少額で大きな取引ができる
- 円を入金すれば、円を含まない通貨ペアでも取引できる
- 買いだけでなく、売りからでも取引できる
- 土日を除く、ほぼ24時間取引できる
- 株式と比べて、銘柄数(通貨ペア数)が少ない
- スワップポイントと呼ばれる金利調整がある
- FX業者の競争が激しく、スプレッドは概ね狭い
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